そんなことを考えても自分を客観視できないのですが、おそらく磐座・巨石の次に入れる言葉が、この磐境でしょうか。
「史跡 磐境(立石群)」(徳島県三好郡東みよし町) |
大学時代、友人に「磐座・磐境に興味がある」という話をしたら、
「磐座・磐境なんて、高校の日本史の問題集で1回見かけたぐらいやわ。よくそんなマニアックな用語しっとるな~」
と、別の意味で感心されたものです。
逆に、高校日本史で一応出てくるレベルの言葉なんですね。磐座・磐境。
磐境の字義
話が脱線しました。
今日は、磐境の用語の意味について考えを巡らせたいと思います。
読み方は、「いわさか」と「いわき」の2種類の説が出されていましたが、今は「いわさか」を支持しておいて問題はないでしょう。
「いわき」と読む説は、「磐城」と同義語とみなす前提から来ている、やや先入観ありきの説です。
古典上での初出と言って良いのは、次の2つの文献です。
磐境・・・『日本書紀』で初出。
磐坂・・・『出雲国風土記』で、磐坂日子命という神名で登場。
漢字の当て字が違うだけで、音は同じでしょう。
『出雲国風土記』に記載されている磐坂日子命は、あくまでも神名にすぎず、岩石を指すものではありません。
しかし、この神を祭神とする島根県松江市の恵曇神社は、社殿の背後に「座王さん」と呼ばれる岩々をまつっています。
このことから、「磐坂」という表記も「磐境」と同義の語ではないかと考えられているわけです。
磐境を記述する古典は、磐座に比べると少ないです。
そのため、正直、磐境の意味は特定しづらく、かなり学者の想像に頼っている状況です。
市販の国語辞典などでは、意味は磐座と同じとされていますね。
「さか」は「境」「坂」
「さか」は、「境」「坂」の字の通り境界を示す語であることなどから、神道考古学の大場磐雄先生は「神祭りの境域」 と定義しています。
岩・石を並べて祭祀の境界を作り、その内部を祭祀空間とするのです。
さしずめ、磐境の中に神籬を立てたというのが『日本書紀』天孫降臨条の祭祀の風景です。
ただ、「さか」を「さかい」に通ずるとみなすのは、音が似通っているというぐらいの根拠です。
え、そんなレベルの根拠で良しとして良いんですか?という声もあるかもしれません。
あえて言うのなら、他の解釈や仮説よりも、矛盾や批判点が少ないから、消去法的にこの解釈が妥当とされている。その一点に尽きます。
この固定概念を覆すような「いわさか」の用例が見つかれば、改めて再検討する必要はあると思います。
ただし、それは全国各地に今残る磐境の事例を単に取り上げればいいというわけではありません。
今ある磐境の例は、近代以降に新たに呼ばれた磐境が散見されるからです。
たとえば、冒頭に写真を掲載した徳島県三好郡東みよし町の八幡神社磐境などは、かつては建石と表記されていたことが古文書で明らかになっており、磐境の表記は明治時代以降です。
『記・紀』などの古典研究が進み、江戸後期以降の復古神道や国学の流行とともに、近代以降、磐座や磐境等の古語がリバイバルすることになったようです。古くて新しいことは、1つの価値なのです。
いま私たちが見ている磐座や磐境は、こういうものとないまぜです。
例を持ち出す時は、かならず歴史的検討を加えて、いつまで遡れるものなのかを示さないと墓穴を掘る時があります。取り扱い要注意です。
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