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2016年11月10日木曜日

「君の名は。」の御神体について知りたいです

「歴史観の形成」の授業でいただいた質問にお応えします。

"山の中にある経塚と「君の名は。」に出てくる宮水神社の岩石は、何がどう違うのか気になりました。もし自分が山の中に行く機会があった時、詳しく見たりしたらバチが当たりますか?中をのぞいてみようと思います!!"(3回生の方より)

「君の名は。」の質問もいただきました。
おかげさまで、このブログでぶっちぎりのpv数が以前書いた「君の名は。」のページになっています。
ブログへ来た検索ワードの約半分もこの映画関連です。
(他の岩石信仰のページも見てね)



御神体の見学のしかた


さて、ご質問の答えについてですが、
バチが当たるかも、という気持ちがあれば大丈夫だと思いますよ。


私が岩石信仰に接する時のモットーは「信仰している人に失礼がないように」です。
その岩石を守り続けてきた、語り続けてきた人の意思を尊重します。

山に入ってはいけないというルールがあれば入りませんし、岩石に触ってはいけないという約束があれば触りません。
触ると指の脂が付きますし、苔も取れます。一人が触っただけではたいしたことなくても、みんながそれをすれば、きっと岩石の肌を改変する手伝いをしてしまうので、基本しません。


禁足地などの明確なルールがない場合は、観察・記録したいという気持ちが勝ります。
時折、長年誰も見ていないがために、岩石の所在や事実があやふやになっているケースがあります。
この場合、足を踏み入れないことで、道が消滅し、岩石の物語が消滅し、一つの歴史が消滅するという手伝いをしていることになります。
過去に、その岩石に接してきた人々に対して、それは失礼であろうと感じるのです。だから私が記録しておこうというおこがましい気持ちが出てきます。

ぜひ、謙虚さと相手への尊重と、知的好奇心のせめぎ合いの中でバランスを取られると、うまくいくのではないかと思います。


経塚と御神体の比較


経塚と宮水神社の御神体との違いについても質問をいただいたのでそちらも回答します。

私が先日の授業で例示した経塚は、三重県の多度経塚でした。
自然の岩と岩の割れ目などを利用して、お経を埋納するスペースにしている例です。
(経塚には、いちから人工的に塚を構築したタイプもあります)

経塚というのは、お経を経筒という入れ物に入れ、その経筒をさらに収納した入れ物です。
中に収めるものが人に代われば、古墳の石室のような働きになります。遺骸を棺桶に収納し、さらにそれを石室でくるむ。
中に神を収める施設なら、「君の名は。」の御神体と同じ働きになります。神を宿す石祠をさらに御神体の岩で格納しています。

違いは、中に入れるものが道具か人か神かということに尽きますが、
なぜ、いずれも二重に入れ物で覆っているのでしょうね?
お経そのもの、遺骸そのもの、神そのものを直視しないことに価値を置いているように見受けられます。隠されると神秘性が増す・・・隠されると、より惹きつけられる・・・

人の心理に、共通する何かがあるのかもと思えます。


あるがままの岩石への思い入れ

自然の岩石に少し人工的な細工を加えて祭祀の場に仕立てているのも特徴の一つです。

宮水神社の御神体や多度経塚は、自然の岩の状態を利用して、その隙間や空間に寄生して祭祀をしています。
ただ入れ物としたいだけなら、全部人工でもよさそうなものです。その方が、作り手にとって意図通りの入れ物になります。

しかし実際は、人工的な加工や補填はごく一部にとどめられており、メインを占めるのは元からそこにあった岩石です。
その辺に、入れ物の機能性だけに終始しない、自然石への思い入れのようなものを感じます。


不便さが、人ならざるものの力を帯びる


最後に、山の中という人里離れた不便な場所に、なぜ御神体や経塚といった入れ物を用意したのかというポイントに触れておきたいです。

「君の名は。」の御神体は、森林限界のような高所感のある山頂に舞台化されています。
糸森の町からの距離の遠さがツッコまれ、「あんなところに短時間で往復できるの?」とか「雨の中登れるの?」など話題になっていたのを見たことがあります。

経塚も、末法の世に仏法が絶えないように、そしていつか来臨する弥勒菩薩のために、経文を保管しておく施設です。
では、そのお経が永久に残り続けると信じられた場所は、決して寺や神社の建物の中ではなかったわけです。
人里離れた山の中が永久に残ると信じられ、弥勒に見つけてもらえる場所だとも信じられ、もっと言えば、岩石の中に宿すことが選ばれたわけです。

なぜ不便な場所に、入れ物を置いたのかの答えが、その辺りにある気がします。
人にとって不便なものほど、人ではないものにとってはイイのかもしれませんね。


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