福島県白河市表郷高木字高野峯
古墳時代中期以降の祭祀遺跡。
この遺跡については、拙著『岩石を信仰していた日本人』の一稿「建鉾山(福島県白河市) 巨岩から離れた場所で祭祀をした理由」で紹介しているので、詳しくはそちらを参考にしていただきたい。
このページでは、紙幅の都合上掲載できなかった建鉾山の写真を中心に、補足的な話をしていきたいと思う。
遺跡は、山頂の「建鉾石」、山腹の「巨岩」と呼ばれる一大巨岩、そして山裾の一画にある「御宝前」と呼ばれるエリアの計3ヶ所から構成されている。順に紹介していこう。
建鉾山の山容
建鉾山は、思わずハッとする三角山というほかない。
直線的な三角形というわけではないが、周辺から隔絶された感のある、三角をやや扁平に崩した傘形の山容は目に止まる。
この方向だけでなく、別の方向から見てもそれぞれ印象的な姿を見せる。
こういう山を神奈備山と形容することが多い。
建鉾山の山頂
さっそく山頂である。石祠に神酒が献じられている。
標高402mだが、麓からの比高差は100mほどなので到達は苦ではない。
物理的な高さが神聖性となった山ではない。
三角山の山頂に露呈する岩盤という環境面。無縁ではないだろう。
建鉾山頂上からの眺めはとても抜けが良い。
今も広大な田園地帯が守られている。古墳時代当時はどうだっただろうか。
山頂に屹立する建鉾石。
頂上側から見ると、頭がニョキッと出ている岩塊だが、人の背丈ほどもないのでさしたる巨石ではない。
しかし、裏側(=斜面側)に回ると・・・
このように下斜面から仰ぐと、建鉾石から根続きで岩盤が広がっていることがわかり、建鉾山は別の姿を見せ始める。
登山口から正規の登山道を辿っているだけだと、この姿を拝むことはできない。
建鉾山の山腹にある「巨岩」
さて、次に第二の聖地「山腹の巨岩」へ移る。
建鉾山遺跡の発掘報告書で「巨岩」と表記された場所で、建鉾山の祭祀の中心ではないかと推測されている存在である。
ここも、正規の登山道からは外れているので、目的を持った人でないと意識することはないだろう。
報告書の図面の位置から、当たりをつけて等高線を辿ると、上の巨岩の「端っこ」が見えてくる。
この巨岩の中心部分に石碑が一つ立っている。
石碑の表面には「大澤権現」と刻まれている。
刻年不明、由来不明である。
古墳時代遺跡当時に遡るものでは当然ないが、この巨岩を神聖視する一つの証である。
石碑の後ろに注目してほしいが、 巨岩の裾部に狭いながら洞穴状のスペースが開いている。
中は確認していないが、巨岩に内部スペースがあるということを祭祀者はどのように想像を広げただろうか。
これが巨岩の全容である。
縮尺が掴みにくいと思うが、写真中央下部に先ほどの石碑が見えるのがわかるだろうか。
石碑と比べてもらうと、巨岩の縦横規模がイメージできるのではないか。
しかも、写真からは見えないが、この巨岩の奥側はそのまま建鉾石までの岩盤に根続きになっている。
つまり、中腹から頂上にかけて岩が露呈する圧倒的スケールの一大巨岩なのだ。
巨岩をさらに引きで撮影した写真。写真奥方にうっすらと見えるのが、先ほどの巨岩である。
巨岩の周辺も、大小の露岩群が分布している。
この巨岩からさらに斜面を下に下っていくと、第三の聖地「御宝前」に到達する。
建鉾山の山裾にある「御宝前」
「御宝前」の上端部。
(発掘報告書の図面からのおおよその推定)
山腹尾根の稜線が見える位置に、小ぶりの岩塊が転がっている。地盤からは浮いているので、元は上斜面からの転石だろう。
斜面の奥方にうっすらと「巨岩」の端っこが見えている。
つまり、「御宝前」は「巨岩」がはっきり見えるところではなく、見えなさそうで見ようと思えば見えるという微妙な立地に築かれた祭祀場である。
「御宝前」は江戸時代の絵図に描かれた聖地で、かつてはここまで神輿を運ぶ祭礼があったという。古墳時代の祭祀遺物が出土した建鉾山遺跡高木地区とは、この「御宝前」のことである。
古墳時代祭祀から江戸時代祭礼まで連綿として祭祀が続いていたと決めつけるにはまだ間をつなぐ証拠がないが、言語化できない神聖視がこの場に二つの時代にあったことだけは揺るぎない。
「御宝前」エリアの最下端あたり。
図面にも「御宝前」に大小の露岩が分布している様子が図示されているが、おそらくそれに相当する岩塊が上写真ではないか。
ここまで来ると「山腹の巨岩」はほとんど見えない。
ほとんど山裾の位置まで来ている。
古墳時代の山岳祭祀は山麓からの遥拝祭祀だったというのが通説的見解だが、麓という表現よりは、山の入口は突破して少し踏み込んでいる神の領域側に祭祀場を設けている印象だ。
古墳時代当時、ここが山の入口と認識されていたか、すでに山のある程度立ち入った中腹という認識だったかはわからない。
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