福井県小浜市下根来 鵜の瀬 / 福井県小浜市遠敷 若狭姫神社
鵜の瀬(鵜之瀬)
鵜の瀬は、遠敷川が折れ曲がる淵とその奥に広がる岩壁から構成される。水中洞穴があるという。 |
若狭姫神社・若狭彦神社の境外神域に位置付けられている。 |
鵜の瀬は遠敷川の淵の名称で、若狭国一宮の祭神である若狭姫と若狭彦が最初に現れた場所という。
そして、両神は最終的な鎮座地を求め、ここ鵜の瀬から離れて、川の下流である現若狭姫神社と若狭彦神社の地へ移った。
神が最初に降臨した地と、神が最終的に鎮座した地という発想について少し述べたい。
従来民俗学や古代祭祀の研究で語られてきた神の姿は、田の神や山の神の発想のように、定期的な間隔(たとえば一年という間隔)で降臨する存在として語られることが多かったように思う。
または、アニミズムのように、最初からそこに居続ける神の姿も代表的なものだろう。
これを岩石信仰の世界に当てはめれば、 定期的に来臨する神の姿は磐座的思想であるし、たえずその場に常在する神の姿は石神的発想と言える。
それに対してのアンチテーゼとして鵜の瀬の彦姫神の来臨のしかたに注目したい。
鵜の瀬は最初に現われた場所であるが、そこに今も定期的に現れるという形も、ずっと居続けるという形もとらず、両神は下流の遠敷の地へ移動し、そこで神社祭祀の流れで常在した。
初めから聖地にいたわけではなく、どこかから来臨した存在だったが、そこに一度とどまり、そして、しばらくしたら別の場所に移るという「不定期感」そして「非固定感」。
古代祭祀の世界は、定期的に来訪する神と、常在神的な発想の二者択一ではなく、もっと多様性のある動きをとっていたことがわかる。
神の移動は、神の論理でのストーリー性があると言い換えてもいいだろう。
鵜の瀬はこのような文脈から、彦姫両神の立場からは「元・鎮座地」「鎮座地跡」と言ってもいい位置付けだが、それと入れ替わるように鵜の瀬は奈良東大寺二月堂の「若狭井」伝承の聖跡という新しい位置付けを与えられた。
東大寺二月堂の若狭井と、鵜の瀬の水中洞穴が繋がっているという信仰がある。
遠地同士が繋がっている伝承は、全国各地に見られる。
東大寺との絡みは、中央集権国家の世界観の中に組み込まれたと推測されるものであり、私はそこまで深掘りするものではないが、水を媒介にして若狭―大和間の神聖な存在のシェアをしたり、 双方の聖地に箔をつけたりする行為には注目したい。
岩壁の窪み近景 |
鵜の瀬に隣接して、白石神社という社がまつられている。
白石大明神、または鵜の瀬大神とよばれる神がまつられ、若狭彦神社の奥宮とされている。
白石という名前については、漢字表記のまま受けとめると、鵜の瀬を形成する岩壁の白い岩肌を神格化したものと感じられる。事実、岩壁には注連縄が渡されていて、淵だけでなく岩壁も神聖視されている。
しかし、白石は新羅の転訛という説もあるようで、安直に白い石と断ずることは避けておこう。
鵜の瀬の信仰の中心は岩壁ではなく、二月堂若狭井と繋がる水中洞穴である。
水中洞穴というから、川の水中の岩壁側に穴が開いているのだと思われるが、目視でこれだと特定するのは難しい。
岩壁に洞穴状の窪みは見られるので。水面下の岩壁にも類似する穴があるのだろう。
かつては淵がもっと深かったといい、現在の景観を見ているだけでは勘違いする恐れもある。
神聖な岩石にあいた穴という意味では、洞穴は岩屋に通じ、これは磐座と共通する「岩石の内部空間に神を宿す」という思想である。
彦姫神が出現したのは鵜の瀬という話は先述したが、出現したのが淵というだけでなく、具体的にはこの洞穴を指すかどうか。それとも岩石に来臨したのか。原記録にはどう記述されているのだろう。
白石大明神、鵜の瀬大明神と彦姫神の関係性も気になるところである。
一般的にはすべて同神とされるが、鵜の瀬に今はいない彦姫と完全に同一の扱いとはされていない。あえて言うなら御魂の性質が異なるか、分霊的な評価となる。
また、神名としてはそれぞれ意味するところが異なる可能性がある。歴史的に同神と言い切れるか、それとも地主神と勧請神の関係に近いのか。
資料調査が足らないまま書き連ねているので着想はこれくらいにとどめておきたいが、鵜の瀬という存在を淵だけで語るか、石を絡めて語るか、彦姫や地主神、若狭井などの要素と絡めて語るかで歴史的な位置付けは相当変わるのではないかと思う。
若狭姫神社の子種石
若狭姫神社と若狭彦神社は、下社と上社の関係である。
若狭姫神社境内には岩石祭祀の事例として子種石があるので紹介しておきたい。
子種石(女器陰石・男根陽石) |
裏側より撮影。後方に見えるのは若狭姫神社拝殿。 |
いわゆる陰陽石の事例に属すが、他例のように撫でるなどの儀礼はなく、シンプルに祈る行為を以て霊験ありとなす。
陰陽石であり、霊験の根本は「子宝」にあるようだ。
女性の恋愛、安産、子孫の繁栄などはそれに付随するものと思われる。
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