静岡県賀茂郡南伊豆町石廊崎
伊豆半島最南端、石廊崎海岸の岩壁に抉り込むように建てられた社殿。
石廊崎 |
石廊崎先端の熊野神社から望む石室神社 |
石室神社 |
『延喜式』神名帳の「伊豆国賀茂郡伊波例命神社」の論社の一つであるが、当社を指すものかははっきりしない。
少なくとも、江戸時代においては石室山金剛院、石廊権現、石廊崎権現などの名で知られ、伊豆七不思議の地としても語られる場所となった。
ここでは、石室神社を構成するこの岩屋について考えてみたい。
全国各地に、自然の岩盤の窪み部分を岩屋や岩窟とする地は数多あるが、分類すれば下記のような形態を挙げることができるだろう。
- 岩屋の中に、完形の建築物を設けるタイプ
- 岩屋の中に、建築物を一部欠けた状態で設けるタイプ
- 岩屋の中に、建築物は設けず祭祀対象だけを安置するタイプ
- 岩屋そのものを、そのまま神聖視するタイプ
石室神社の場合は、1に近いながらも、2のタイプに属すると思われる。
視覚上の違いが、信仰する人々の世界観にも影響したのではないかという仮説を立てれば、次のような論点を挙げることができるのではないだろうか。
- 岩石そのもので信仰の世界観が完結するか、視覚的に祭祀対象であることを明示する何かを盛り込みたかったかの心理の違い
- 自然の岩屋に、どこまで手を入れるかという心理の違い
- 視覚的に、自然物と人工物の主従関係をどう設計したかという心理の違い
石室神社は、社殿がやや岩屋に取り込まれている(岩屋空間に合わせて設計調整している)のが特徴である。「半ば」というよりは「ちょっと」というニュアンスがしっくりくる。
社殿は対称ではなく、奥方は岩屋の岩壁に沿わせて造られている。 |
ただし、形態分類というものは、立地環境によって自ずと規定されることもあり、その上で外見上での区別をしたにすぎないため、それ自体が何かしらの信仰の違いを証明するわけではない。
また、歴史的に現在の外観となったのがいつからか、信仰の淵源においてはどのような形態であったかは別に検討する必要があり、現状の景観で判断するのは注意である。
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