愛知県北設楽郡設楽町津具 天狗棚
天狗棚(標高1240m)は天狗が棲む場所といわれ、一帯がハイキングコースとして整備された中に通称「石の広場」と呼ばれるエリアがある。
中根洋治氏「津具村の天狗棚」『愛知発巨石信仰』(愛知磐座研究会 2002年)のなかで、環状列石説が紹介された場所でもある。
中根氏はソースを明記していないが、愛知大学考古学会を創設した横山将三郎が次のような所見を述べたらしい。
昭和三十三年に愛知大学教授の横山将三郎氏が当地へ来て、次のような内容を地元の同行者に書き送った。
「この環状列石は墳墓としてのものより、黒曜石の産地として神聖な場所だから祭祀が行なわれた磐座に近いものであろう。」とのことであった。(前掲書より)
中根氏はこれを受けて、現地を訪れて以下の点をまとめている。
- 石の広場の岩石は100個以上。
- 南西部は円形になっているようにも見え、3個ほどは人為的配置を感じるが、全体としては自然の岩盤の一部だろう。
- 発掘調査がされているわけではないので、環状列石としての認定は保留。
- 石の広場には「天狗の手洗鉢」と呼ばれる手洗鉢状の岩石がある。石には水が溜まる窪みがあり、雨乞いの祭祀に使われた。祭りの日には注連縄を張る。
- 石の広場から西方100mほど登った中腹に、高さ3mほどの石群がある。石の広場はこの石群に対応する「磐境」か。
石の広場は、遊歩道沿いに案内標識があるものの、肝心の現地にそれを示す標示が見当たらない。東屋が立てられている下写真の場所である。
おそらくこのあたりが、中根氏が円形を感じたという南西部の岩石群だろう。
「天狗の手洗鉢」は祭日にしめ縄が張られるとのことで、中根氏の前掲書に写真も掲載されているが、私が訪れた時にしめ縄や窪みの有無は見当たらず、どれのことか特定できなかった。
石の広場以上に、"石の広場"となっているのが、中根氏の指摘する西方100m上方の石群である。岩海という表現がふさわしく、石の広場のそれより岩石1個の規模も一回り大きい。
この石群と石の広場の間は遊歩道で分断されているが、斜面の流れとしては石群の直下、傾斜変換点となって平らになる地点に石の広場が位置する。
おそらく、斜面の石の広場から落石した礫群が堆積した場所が石の広場だろう。
石の広場の目印。写真奥上方斜面に石群があり、写真の標識の背中側に石の広場がある。 |
環状列石説の当否については、中根氏がおっしゃるとおり、発掘調査がされておらず遺物・遺構の認定ができなければ当然、自然の岩石群と評価するのが適切である。
人為的配置についても、いわゆる人工施設としての環状列石であれば埋蔵文化財として地中に埋没するのが一般的であり、また、地表に露出していれば再利用により岩石の移動・配置・改変がなされたことを考慮してしかるべきだろう。
つまり、現状の状態だけを見て云々することが、本来危険な行為と言わざるを得ない。
天狗棚の天白神社・国常立尊碑 |