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2024年3月15日金曜日

『変動帯の文化地質学』第2部第2章を分担執筆しました

すべては、地質の上に成る――。地震や火山などの災害と隣り合わせで生きる日本人にとって、地質は自然環境の基盤としてのみならず精神文化の基盤としても相即不離な存在である。(出版社HPより

2024年2月、鈴木寿志[編集代表] 伊藤孝・高橋直樹・川村教一・田口公則[編集]『変動帯の文化地質学』(京都大学学術出版会)が刊行されました。

全5部構成ですが、その第2部の第2章「岩石信仰研究の視点」(pp.157-173)を吉川が執筆しました。

本文でも述懐しましたが、私がこのような研究を始めた時の「巨石」「磐座」一辺倒だった当時の空気をふりかえれば、今回、岩石信仰の章が設けられたのは隔世の感ありです。


本書は科研費「変動帯の文化地質学」の研究成果として発表されたものです。

変動帯も文化地質学も耳慣れない用語かもしれませんが、日本列島は地震や火山に代表される地質活動が活発な変動帯に属します。

そのような土地の上に住む人々に、変動帯ならではの地質活動が文化的な影響をも与えただろうという仮説の下、数々の研究が揃いました。


本書の目次を紹介します。

―――

序論 文化地質学の提唱と発展

  • 第I部 石材利用の歴史と文化
  • 第1章 城の石垣・石材から見えること
  • 第2章 山形城の石垣石はどこから集めたのか
  • 第3章 庶民の石,権力の石──神奈川県の石材から
  • 第4章 シシ垣──人と野生動物を隔てる石の砦
  • 第5章 「石なし県」千葉における石材利用
  • 第6章 近代建築物に利用された国産石材
  • 第7章 なぜ「花崗岩」のことを「御影石」と呼ぶのか──土石流がもたらした銘石

第II部 信仰と地質学

  • 第1章 縄文時代と環状列石──北東北の例
  • 第2章 岩石信仰研究の視点
  • 第3章 仏教における結界石の持つ意味と役割──日本とタイの事例から
  • 第4章 磨崖仏
  • 第5章 山岳霊場の地質学──香川県小豆島と大分県国東半島の岩窟
  • 第6章 熊野の霊場を特徴づける地形・地質
  • 第7章 中近世石造物の考古学──兵庫県姫路市書寫山圓教寺の事例から
  • 第8章 京都の白川石の石仏

第III部 文学と地質・災害

  • 第1章 地質文学
  • 第2章 『おくのほそ道』に描かれた芭蕉の自然観
  • 第3章 「地」で読み解く宮沢賢治
  • 第4章 日記史料にみる中近世の日本における地震の捉え方
  • 第5章 醜い山から崇高な山へ──B・H・ブロッケスの詩「山々」をめぐって

第IV部 地域の地形・地質を楽しむ

  • 第1章 地域資源をブランド化する──ジオパークと日本遺産
  • 第2章 文化地質学の視点を取り入れたジオツーリズム
  • 第3章 地学散策路──ジオトレイル
  • 第4章 地域の成り立ちを見る──ジオストーリー
  • 第5章 食と地学──常陸・茨城の食の背景を考える
  • 第6章 地域資源の再発見──博物館の新しい役割
  • 第7章 地域を見る目を育てる──地域博物館の使命

第V部 地学教育の新展開

  • 第1章 地学教育における文化地質学の役割
  • 第2章 学校の岩石園を探検しよう

総論 変動帯の文化地質学

―――

企画が始まった時にこの目次の素案を見てわくわくしたものです。

地質学分野の方々のみならず、人文学の立場からも興味深いテーマが見つかるのではないでしょうか。

本書企画時の想定読者層は大学生以上~社会人と聞いています。研究者・学者向けの論集という作りではなく、本書を入口に今後の学問関心を喚起するような平易な文体となっているはずです。

私もその企画意図に合わせて、後学の方に向けての遺言めいたメッセージを込めた内容としました。


【節見出し】

  1. 岩石信仰の概念
  2. 自然石の信仰を研究する難しさと重要性
  3. 観察方法
  4. 岩石信仰の起源に関する論点
  5. 岩石信仰の現在地と未来


岩石信仰は自然信仰ですから、主客の関係でいえば、自然が主で人間が客体です。

人間には個体差がありますから、自然を前にして受け身になった時、各人が思い思いに異なる感情を得ることと思います。すなわち、岩石信仰は本来的には多様でカオスという世界観を是とします。

しかし、人間社会では多様の難しさもあります。みんなばらばらの心の中だと相手のことがわからない、社会を構築しにくい、集団での統制が取れないなど…。

そこで我慢できなくなった人が均一化・統一化・強制化を図ると、個人的信仰心から離れて社会性をもった宗教になりますが、そうすると人が主で、自然が二の次になったと言えます。

だから、組織立った宗教には信仰心とは別の要因・ノイズが入りだします。これは善悪をつけられるものというより、ヒトの業のようなものかと思いますが、私はそういった社会化した宗教研究よりも一個人の脳の反応として出現した信仰心に研究の関心があります。

そのあたりが伝われば、岩石信仰研究が誰にでも当事者となりうる人間研究であり、多様でカオスな隣人を理解する一方法なのだとおわかりいただけると思います。


当サイトの「カタログ」にも掲載しました。

税込5,940円ですが、お求めいただければ嬉しく思います。


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