岩田慶治『草木虫魚の人類学』(講談社 1991年)の第2章第2節が「石」であり、海外のアニミズム(草木虫魚教)に関する石の事例を取り上げている。
ニュージーランドのマオリ族
緑石を加工して石器を作る。
日常使用は打製石器のままでよいが、加工と研磨を加えたものは装飾品となる。
それらの中で、何世代にもわたり研磨されたものは、労力の結集、祖先伝来の宝器となり、子孫の礼拝を受ける。
これは石が石でなくなり、石のメタモルフォ―ゼと岩田氏は形容する。
自然石信仰とはまた異なる、加工された石に対する信仰と言える。
ボルネオ内陸に住むケラビット族
インドネシア領カリマンタンとの国境地帯に多くの巨石が残るといい、ケラビット族の所産とされる。
バトゥ・ナンガンとバトゥ・シノパッドという二種類の巨石構造物を作る(バトゥは「石」の意)。
村人の話によると、バトゥを作ることで個人の霊を慰め、個人の霊魂がさまよわないようにするためだという。
ケラビット族は4種類の階級に分かれていて、バトゥを作るのは第一階級のみという。
バトゥ・ナンガン
ナンガンは「支える」の意。大石を数個の石で支えたもの。いわゆるドルメン型の構造物。
生前に功績を残した人物や首長を記念して、死後に村人が建てる。
バトゥ・シノパッド
シノパッドは「立てる」の意。細長い石を地上に垂直に立てたもの。いわゆるメンヒル型の構造物。
祖父母、父母の死後に子孫が建てる。
バトゥを作る時のルール
個人の記憶が残る死後1~2年のうちに行う。
バトゥの立地は、山地だが村人がよく通る場所が選ばれる。峠道が多い。
村人が結集して石をその山地に運ぶ。
七日七夜にわたる祭りを行う。故人の思い出を語り、家畜を屠り供えて、村人全員で共食の後に歌と踊りを連日行う。
興味深いこととして、現在のケラビット族はバトゥを作らないが、それ以外は今も同様の祭りを行うということで、石は主役ではなくなっている。
岩田氏は「石はカミの依り代でありえたのだろうか」という疑問を投げかけているが、その答えは明言されていない。
ドルメン、メンヒルに属する巨石文化の典型的事例として語られるものだろう。
0 件のコメント:
コメントを投稿
記事にコメントができます。または、本サイトのお問い合わせフォームからもメッセージを送信できます。